COLUMN
コラム
東日本大震災の復旧に際して、建設業は大きな役割を果たしました。
震災直後、瓦礫の撤去や崩れた道路の復旧、被災地救援のためのライフライン整備が行われたことは、多くの人々の記憶に残っています。
南海トラフ沿いで発生が予想される地震と津波は、日本の防災経験をもってしても「国難」といえるほどの規模になるとされています。
この記事では、南海トラフ地震の被害想定と、建設業が備えるべき強震動・巨大津波対策について解説します。
令和3年、国土交通省が策定した「南海トラフ巨大地震対策計画」では、最大M9クラスの地震が想定されています。
震度6弱〜7クラスの強震動が、関東から九州までの広範囲で長時間発生し、高さ5〜30mの津波が複数回襲来する可能性があります。
主な被害想定は以下の通りです。
被害規模は最大で死者約32.3万人、直接被害額約170兆円、生産・サービス低下による影響は約45兆円と試算されています。
建設業は日常的に社会基盤を支える役割を担っており、非常時には技術と経験を最大限に発揮して復旧・復興を支えることが求められます。

南海トラフ地震で起きる強震動に対する対策として挙げられるのは、「建築物・宅地の耐震化」「火災対策」「土砂災害対策」の3つです。
震度7クラスの強震動では、最大で約34.6万棟が全壊すると想定されています。
住宅だけでなく、学校や病院、市役所、避難所などの公共施設も例外ではありません。
これらの施設は震災時の拠点になるため、耐震性能の確保は最優先課題です。
建築物や宅地の耐震化には、耐震診断や補強工事の普及が不可欠です。
特に昭和56年以前の旧耐震基準で建てられた建物や、老朽化が進んだ構造物は早急な改修が必要とされています。
また、港湾、空港、鉄道などの重要インフラは、災害後の復旧活動を支える基盤となるため、耐震強化や液状化対策が必須です。
加えて、新技術の導入や防災機能を高めた設計の採用により、耐震性をさらに向上させることが重要です。
南海トラフ地震による大規模火災では、最大で約75万棟が消失するという想定になっています。
今後、密集市街地での緑地帯整備や幹線道路などの整備、老朽建築物の除却、耐火建築物などの共同建替えなどが進んでいくと考えられます。また海上部やコンビナートなどの臨海部の整備も急ピッチで進められるはずです。
火災に強い街づくりの計画立案、より防災機能の優れた建築資材の開発など、自社の得意分野を活かした火災対策を提案していくべきでしょう。
南海トラフ地震では、土砂崩れや地すべり、がけ崩れといった土砂災害も発生する可能性が高いです。
特に山間部や海岸沿いの斜面では、地震動による大規模な崩落が懸念されます。
防災拠点や重要交通路、避難路を守るためには、事前の危険箇所調査と、砂防ダムや擁壁、法面保護工などの防災施設整備が必要です。
また、孤立集落が発生しないよう、代替経路の確保や仮設道路整備の計画も検討すべきです。
建設業界には、災害発生時に即応できる緊急体制と、効率的な復旧工法の開発・実装が求められています。
南海トラフ地震では、巨大津波の襲来により、最大で約22.4万人が犠牲になると想定されています。このような深刻な被害から少しでも多くの国民を守るため、効果的であると同時に早期の対策完了が望まれます。
津波対策では、押し寄せる津波との「時間の戦い」という側面があり、災害発生時の避難路・避難場所の確保は重要です。避難路が常に正常に機能しているかの確認や調査、避難場所の耐震化も必要となります。
自治体の海底地形データや地震観測データ提供によるハザードマップ作成に、建設業者が連携することなども検討するべきでしょう。
津波浸水を軽減させて沿岸住民を守るためには、海岸保全や河川管理に係る施設の耐震・液状化対策を進める必要があります。また津波が想定される地域では、水門施設の自動化・遠隔操作も重要でしょう。
保全・管理施設の的確な維持管理や更新は、建設業者による適切な点検と的確な修繕が欠かせません。より一層の情報の整備や新技術の開発・導入も期待されます。
巨大津波の発生により、道路、港湾、空港、鉄道などの広域輸送システムが遮断されてしまう可能性は高いです。
これに対策を講じてシステムを維持し機能させることは、津波被害を軽減するとともに、早期に社会基盤を復旧させるためにも非常に重要となります。
建設業者を含む民間企業と所管する官庁との協働により、先進的な技術を導入しながら、対策完了時期を明記した対策が実践されるべきです。
国土交通白書2020によると、南海トラフ地震について、M8~9クラスの地震が30年以内に発する確率は70~80%(2020年1月24日時点)とされています。
建設業は人々の生活が安全で快適であることを目指す仕事ですから、国難ともいえる災害には、その技術力やノウハウを最大限に発揮し活用して対処することが求められるのではないでしょうか。
その対策が、被害を最小限にとどめ、救われる命を増やすことにつながるはずです。
参考資料
国土交通省|南海トラフ巨大地震対策計画
https://www.mlit.go.jp/river/earthquake/pdf/nankai/20210917_01.pdf
03-6277-2929