COLUMN
コラムEV(電気自動車)の走行中給電システムは、EV普及率の底上げの突破口として注目されています。
わが国の2021年の燃料別新車販売台数によると、ガソリン車49.3%、HV42.8%、ディーゼル車が5.96%で、EVは0.88%となっています。
アメリカの約5.6%、ヨーロッパの9.1%、中国の約11%に比較するとかなり低い印象です。
EVの走行中給電システムは、ただ道路を走っているだけで給電できるというシステムなのですが、実用化にはいくつかの課題もあるようです。
この記事では、EVの走行中給電システムの技術開発の現状と今後の展望を紹介します。
参照元|EV普及率
EVの走行中給電とは、道路に送電装置を設置して、走りながら充電できるシステムです。その原理の概要と実用化した場合のメリットを紹介します。
走行中給電の代表的な給電方式としては、電界結合方式、電磁誘導方式、磁界共鳴方式、マイクロ送電方式などがあります。
現在、最も実用化に近いのは電界結合方式ではないかとされています。
EVの走行中給電の実用化には、大きなメリットがあります。
実用化によって、以上のようなメリットが一般に認知されるようになればEVの普及率は格段に伸びることは間違いないでしょう。そうすれば、カーボンニュートラルの実現にも大きな弾みとなるはずです。
またEVは蓄電設備としても大きな力を発揮します。走行中給電は、太陽光発電や風力発電のように気象状況による影響を受けないので、安定した再生可能エネルギーとして利用することが可能だからです。
今、政府の積極的なイニシアティブのもと、さまざまな企業や大学がタッグを組み実用化に向けて活発な研究がなされています。世界に先駆けた、大きな成果が期待されるところです。
EVの走行中給電は、すでに実用化されていたり実証実験されたりしている領域が存在します。
ここでは、走行中給電の技術開発の現状について紹介します。
AGV(Automatic Guided Vehicle)とは無人搬送車のことです。非接触給電システムによる、AGVの荷物の積み降ろし時の継ぎ足し給電が実用化されています。
また走行ルートに送電コイルを埋設し、無人搬送車の受電コイルに走行中給電する製品の開発も進められています。
鉄道車両用非接触給電システムにも実用例があります。変圧器(電磁誘導/磁界結合)方式による非接触給電です。
システムに摩耗がないため保守は省力化され、作業中の感電・墜落の恐れもなくなるので安全性が向上すると評価されています。
韓国やスペイン、イスラエルなどでは、路線バスの非接触式-磁界結合方式による走行中給電の実証実験が行われています。走行ルートの一定区間のみの設置ですが、85km/hでの給電や400kwの電力の伝送などの実証に成功しています。
ドイツでは、長距離運輸トラックに向け、連邦高速道路(10k)に架線を設置し実用化に向けた試験的な運用が行われています。
参照
https://www.hitachi-hri.com/keyword/k134.html
わが国では、関西電力や大林組、東日本高速道路などを含む5社共同で大阪市高速電気軌道の電気バス100台の運行管理や充電制御を行うことで、2025年度の大阪・関西万博会場内外での電気バス運行を目指すことが決まっています。
この計画では、公道のDWPT(運行中の電気バスに給電するシステム)埋設や、遠隔制御サーバーを活用したエネルギーマネジメントシステムが実装される予定です。
参照
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220720_1.html
EVの走行中給電の実用化にはさまざまメリットがありますが、解決しなければならない課題もあります。重要な2つの課題、インフラ整備・受電装置の軽量化について紹介します。
EVの走行中給電では道路側のインフラ整備は非常に重要なポイントです。
日本中の道路を電化するというと膨大な予算を連想しますが、ある試算によれば5,000億円ぐらいで可能とされています。
高速道路に給電レーン、一般道路の交差点付近、一般道路というような段階的な設置拡大が現実的です。
一般道がアスファルトやコンクリートの舗装道に変わっていったように、数十年~100年くらいのスパンでの検討を考慮すべきでしょう。
参照
http://hori.k.u-tokyo.ac.jp/202112doro.pdf
以上のようなEVを中心とした今後のモビリティに対応する道路側のインフラ整備において、今、特に注目されているのが大林組です。
大林組は、この分野に強みを持つ大学や団体、企業と、かなり以前から複数の連携を重ねて技術集積を遂げており他社に一歩先んじています。
上記のような明確な開発ビジョンを掲げ、具体的な実験と検証を続けているのです。
参照
https://dcross.impress.co.jp/docs/usecase/003351.html
EVの受電装置の搭載設計と軽量化も実用化に向けた大きな課題です。
現在、EVの搭載設計で最も技術開発が進んでいるのは、受電カイロのすべてをホイール内の空間に収納する方法です。すでに実車での走行実験に成功しています。
この技術が実用化されれば、走行中給電性能やモータ性能、搭載性は飛躍的に向上します。
受電装置の軽量化は、いかにバッテリー容量を少なくするかにかかっています。そうすることでEVは軽くなり、少ないエネルギーで走ることが可能になります。
この記事では、EVの走行中給電の原理や実用化によるメリット、技術開発の現状として実用例や実証実験、実用化のために解決すべき課題について紹介しました。
EVの走行中給電の実用化により、ガソリン車が無くなればCO2は大幅に削減されます。またこの走行中給電の技術の応用により、さまざまな産業でCO2削減に向けた取り組みがなされるはずです。
さらにはEV自体が再生可能エネルギーとしての役割を果たすことができるようになれば、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献することになるでしょう。
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